8月に届けたい、一つの詩。

8月に届けたい、一つの詩。
 
 
いやしの森から、
こんにちは🏳️‍🌈
 
今回は、詩の紹介です。
お時間があるときに、最後までお読みいただけたらうれしいです。
 
峠 三吉 著
『詩集 にんげんをかえせ』
増岡敏和 編 より。
 
「斉美小学校戦災児童の霊」
 
だまって立っている君たちの
その不思議そうな瞳に
にいさんや父さんがしがみつかされていた野砲が
赤錆びてころがり
クローバーの窪みで
外国の兵隊と女のひとが
ねそべっているのが見えるこの道の角
向こうの原っぱに
高くあたらしい塀をめぐらした拘置所の方へ
戦争をすまい、といったからだという人たちが
きょうもつながれてゆくこの道の角
 
ほんとうに  なんと不思議なこと
君たちの兎のような耳に
そぎ屋根の軒から
雑音まじりのラジオが
どこに何百トンの爆弾を落としたとか
原爆製造の予算が何億ドルにふやされたとか
増援軍が朝鮮に上陸するとか
とくとくとニュースをながすのがきこえ
青くさい鉄道草の根から
錆びた釘さえ
ひろわれ買われ
ああ  君たちは 片づけられ
忘れられる
かろうじてのこされた一本の標柱も
やがて土木会社の拡張工事の土砂に埋まり
その小さな手や
頸の骨を埋めた場所は
何かの下になって
永久にわからなくなる
 
「斉美小学校戦災児童の霊」
 
花筒に花はなくとも
蝶が二羽おっかけっこをし
くろい木目に
風は海から吹き
あの日の朝のように
空はまだ  輝くあおさ
 
君たちよ出てこないか
やわらかい腕を交み
起き上ってこないか
 
お婆ちゃんは
おまつりみたいな平和祭になんかゆくものかと
いまもおまえのことを待ち
おじいさまは
むくげの木蔭に
こっそりおまえの古靴をかくしている
 
たおれた母親の乳房にしゃぶりついて
生き残ったあの日の子供も
もう六つ
どろぼうをして
こじきをして
雨の道路をうろついた
君たちの友達も
もうくろぐろと陽に焼けて
おとなに負けぬ腕っぷしをもった
 
負けるものか
まけるものかと
朝鮮のお友だちは
炎天の広島駅で
戦争にさせないための署名をあつめ
負けるものか
まけるものかと
日本の子供たちは
靴磨きの道具をすて
ほんとうのことを書いた新聞を売る
 
君たちよ
もういい  だまっているのはいい
戦争をおこそうとするおとなたちと
世界中でたたかうために
そのつぶらな瞳を輝かせ
その澄みとおる声で
ワッ!  と叫んでとび出してこい
そして  その
誰の胸へも抱きつかれる腕をひろげ
たれの心へも正しい涙を呼び返す頬をおしつけ
ぼくたちはひろしまの
ひろしまの子だ  と
みんなのからだへ
とびついて来い!
 
(新日本出版社 / 1995年1月30日 初版)
 
以上の詩は、あまり知られていないかもしれませんが、詩集の中から、どうしても紹介したいと思い、引用させていただきました。
 
戦争をして、
幸福になる生命はいないということを、
智慧で理解して、
その智慧を分かち合うことを生き方の根っこにおいて立つことを死ぬまであきらめたくはありません。
 
まずは、
自分の心から。
 
怒りや恨みや憎しみや嫌悪を捨てて、平和を、慈悲を選べるように。
 
 
Words by 赤月凪 亜優見